貝殻(カイガラ)肥料はその名の通り、貝殻を砕いて肥料にしたもので、海に近い地域では古くから農業の現場で砕いて有機肥料として再利用されています。ホタテ貝などが有名で、砕いた貝殻を畑に撒くことで肥料効果が得られ、作物の品質向上や土壌改良など好影響がもたらされます。
その中身は100%天然素材に由来する有機石灰肥料。この記事では、貝殻肥料の特長、また作り方やおすすめ商品をご紹介します。
貝殻肥料とは
貝殻肥料とは、貝殻を粉砕し、肥料として用いるものです。殻の肥料は他に、卵の殻や甲殻(エビの殻であるエビガラ、カニガラ)、牡蠣殻(カキ殻)が肥料として使われています。
化成肥料と異なり有機質肥料なので、肥料成分の補給にとどまらず、土壌改良の効果も期待できます。有機物が有用な菌などの微生物の餌となることで、微生物の活性が高まり、団粒構造が促進されます。団粒構造が形成された土壌は、保水性、透水性、排水性が良好で、作物の増収や品質向上につながります。
さらに、微生物による分解や発酵(醗酵)などで地力の高まった土壌では、病害虫(病気と害虫)の発生が少ないため、農薬(殺菌剤や殺虫剤)の散布を抑えられるという利点もあります。
貝殻は、肥料取締法の定めにより、特殊肥料に分類されています。特殊肥料とは、普通肥料と異なり登録義務がない、昔ながらの肥料のことです。米ぬか、肉粕、魚粕、草木灰、グアノ、堆肥(たい肥)(牛ふん、馬ふん等)のように肥料含有量のみに依存せずその価値が認められ、農林水産大臣により指定されています。
貝殻肥料の成分
主成分
貝殻の主成分は「炭酸カルシウム」になります。
カルシウムは植物にとって重要な多量要素(二次要素)の一つです。カルシウム成分は栽培において、以下の働きがあります。
- ペクチンという多糖類と結合し、細胞膜を丈夫にして病害虫に対する抵抗力をつける働き
- 根の生育を促進する働き
- 植物体内でできる過剰な老廃物(有機酸)を中和する働き
- 用土の土壌酸度(pH)の調整剤としての働き
カルシウム肥料というと、消石灰(水酸化カルシウム)や生石灰(酸化カルシウム)、苦土石灰が有名ですね!
カルシウムが不足(欠乏)すると、生長の盛んな新芽や苗、根の生育が悪くなります。(葉や茎が黄色くなったり、枯れたりします)カルシウムは植物体内での移動がほとんどありませんので、新芽に症状があらわれやすいのが特徴です。カルシウムについて詳しくは下記を参考にしてみてください。
その他の要素
植物の生育には、チッソ(窒素)、リン酸(燐酸)、カリ(加里)、カルシウム、マグネシウム、硫黄といった多量要素が欠かせません。貝殻肥料には、カルシウムのほか、チッソ、リンサン、カリ、ケイ酸、また鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、銅、モリブデンといった微量要素も含んでいます。
また、貝の種類によって様々な成分が含まれています。例えばホタテ貝は貝の分泌したコンキオリン酸、ホタテ貝殻の内側に含まれるキチン質、表面に付着したラミナリン質があり、チッソの吸収をよくしたり、土中の放線菌等の有効微生物の働きを活発にする働きがあります。
その他の有機肥料も気になる方は、下の記事も参考にしてください。
貝殻肥料の特長
貝殻肥料の特長は主に以下があります。
- アルカリ分がほかの石灰肥料に比べて低く、生石灰、消石灰はもちろん、苦土石灰よりも効き目が遅効性でおだやか
- アルカリ性が土壌を中和し、酸性からじわじわと栽培作物に最適な土壌pHに調整し、品質向上、収量増に貢献
- カルシウムだけでなく、チッソ、リン酸、カリ、ケイ酸、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、銅、モリブデンといった植物に必要な微量要素、ミネラル、養分を多く含む
- 貝殻はゼオライト、軽石のように多孔質構造のため、小さい穴が親水性や通気性、保肥力を高め、土壌の中の微生物の活動を促進、土壌改良、連作障害の防止に
貝殻肥料の作り方
貝殻肥料の作り方は簡単です。虫がわかないよう卵の殻を水でよく洗って、乾燥させた後、ミルサーなどを使わない範囲で粉砕し粒状、粉状にします。これを畑に元肥として撒いたり、作付け、植付けする腐葉土に混ぜ込んだりすればOKです。
基本的には大量入手するのは簡単ではないので、殺菌された、製品として販売されているものを利用します。
炭酸カルシウムと肥料として有効活用するためのワンポイント
発酵させて使う
貝殻、牡蠣殻や卵の殻に代表される「炭酸カルシウム」は、水に非常に溶けにくく、わずかずつ土壌溶液や根酸、微生物が出す有機酸に溶かされて作物に吸収されます。このため、そのまま撒いてもなかなかすぐには効きません。
すぐに効かせたい時は、牛糞やもみ殻(モミガラ)、ソバ殻、米ぬかなどに牡蠣殻を混ぜ込み、半年から1年ほど寝かせた後で使うと、効果が早く出るようになります。このような有機肥料を発酵させることで速効性を持たせた肥料を「ぼかし肥料」と言います。ぼかし肥料、コンポスト(コンポストとは「たい肥(compost)」や「堆肥をつくる容器(composter)」を言います)について作り方など、もっと知りたい方は、是非下記に目を通してみてください。
酢に漬け込んで「酢酸カルシウム」にして使う
また最近では貝殻を酢と混ぜることで、炭酸カルシウムが化学反応し、作物の吸収力がいい「酢酸カルシウム」が発生するので、これの有効活用がなされています。
作り方、使い方は簡単で、貝殻(卵の殻やカキ殻やカニガラでもOK)を食酢に入れて1日置き(2Lの酢に20個程度の殻)、その酢を40〜50倍ほどに水で希釈して、作物の根元に2週間に1度のペースで撒くだけです。
酢酸カルシウムを散布すると、作物が丈夫に育ちやすくなり、さらに食味、糖度が増すとして愛用している農家の方も多くいらっしゃいます。
貝殻を酢につける注意点としては、貝の種類によっては溶けにくいものがあるということです。牡蠣殻は溶けやすいですが、基本的にホタテ貝のような二枚貝は溶けにくい傾向があります。通常は1ヶ月ほど経つと溶け始めますが、溶けない場合は、貝を焼いてから細かく砕いて酢に入れる、またクエン酸粉末を貝にまぶして酢に入れる、といった工夫をすると良いでしょう。
どれくらいの量を目安に使用するの?
どれくらいの量を目安に使用するかは、貝の種類、土壌の酸性度(pH)や作物の種類によって変わってきます。購入された場合は、製品の説明をよく読んでください。また自分で集めて利用する場合は以下の分量をあくまで目安として参考にしてください。
- ph5.0〜6.0 50kg程度(10aあたり)
- ph6.0〜6.5 20kg程度(10aあたり)
家庭菜園で使用する場合は、1平方メートルあたり、1kgくらいが目安です。
おすすめの貝殻肥料
肥料を選ぶ際のポイントは、容量、形状、他の成分が配合されているか等です。用途に応じて選ぶことになりますが、他の成分が配合されていないシンプルな製品の方が安価です。有機JAS適合品、ペレット、液体(液肥タイプ)などもありますが、ここでは実績のあるおすすめの商品をご紹介します。
サンカルシウム
北海道噴火湾産の焼成ホタテ貝殻石灰で、貝殻を焼成して土に溶けやすく、作物に吸収されやすく加工した製品です。有機石灰なので土が固くならず、弱アルカリ性ですので急激なPHの変動もないので土にやさしい。
また、ホタテ貝殻の中には良質なたんぱく質、貝の分泌したコンキオリン酸、貝殻の内側に含まれるキチン質、表面に付着したラミナリン質が含まれています。これらは窒素の吸収を良くしたり、土壌中の有効微生物の働きを活発にします。
貝殻肥料を購入
ホームセンターなど店舗で購入する
上記で紹介した肥料は、カインズ、コメリなどのホームセンターのガーデニング・資材コーナーで販売されています。また、ダイソーなどの100円均一でも販売されていることがありますが、取り扱いのない店舗も多いようなので注意が必要です。
通販で購入する
店舗で実物をみて購入することも良いことですが、「その店舗での取り扱いがない」ことや「そもそもその商品がホームセンターなどの小売店で販売されていない」ことも多いです。時間とお金を節約するため、積極的に通販(インターネットショッピング)を利用しましょう。今ではAmazonや楽天市場など様々なECサイトで農業・園芸用品が取り扱われています。店舗よりも安く購入できる場合も多いですので、一度のぞいてみましょう。
まとめ
他の石灰肥料より緩やかに持続して効果を発揮し、土壌pHを調整してくれる貝殻肥料は、有機質肥料でもあり、微量要素やミネラルも豊富で、非常に有効な肥料になります。とくに、カルシウム欠乏症が気になる好カルシウム植物、例えばトマト、ナス、ホウレンソウ、ジャガイモなどの栽培、育苗にぴったりです。もちろん、イチゴなどの果菜類、ブルーベリーやレモンといった果樹や水稲、花壇の草花、雑草、ベランダなどでの鉢植えにも有効です。
他の有機石灰肥料の卵の殻や牡蠣殻と並んで人気の肥料です。種まきをする前に鉢の用土に混ぜ込んでみましょう。
速効性はないので、元肥(定植、植え付け前の施肥)にうまく活用する、またぼかし肥料として使う、また酢と混ぜて酢酸カルシウムにして使うなど、色んな方法があります。是非、土作りに活かしてください。本記事が農ある暮らしの一助となれば幸いです。
この他、海にまつわる有機肥料は下記のようなものもあります。参考にしてみてください。