春に紫色や白色の花房が垂れ下がる姿が美しい藤は、古くから日本に親しまれてきた花です。藤棚のイメージが強い藤ですが、鉢植えでも育てることができます。
藤の花はマメ科の植物のため、普通の樹木のように肥料を与えると葉だけが茂り花が咲かないことがあります。ここでは、藤の花を上手に咲かせるおすすめの肥料や肥料のやり方の基本について、わかりやすく説明します。
藤(フジ)の基礎知識
肥料の話をするまえに、藤について知っておきましょう。植物の栽培をするうえで、その植物の特徴を知っておくことは大切です。自生地や生育期などを知ればその植物がどのような環境で育てると、枯れずに元気に育つのかわかってきます。
![](https://www.noukaweb.com/assets/uploads/2024/05/wisteria-white.jpg)
学名 | Wisteria floribunda |
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属名 | マメ科フジ属 |
原産地 | 日本 |
樹高・草丈 | ~10m以上 |
耐寒性等 | 耐寒性:普通 耐暑性:普通 |
開花期 | 4月中旬~5月上旬 |
藤はマメ科の落葉性のつる植物で、つるが地表をほふくして生長するので藤棚やフェンスなどに誘引して栽培します。花は枝先に長さ20~100㎝の総状花序に多数ついて、長く垂れ下がります。大きくなるイメージが強い藤ですが、品種を選べば鉢植えでも育てることができます。
日本の固有種で、暑さ寒さにも比較的強いので栽培は難しくありません。しかし、つるが伸びるので誘引、剪定などの管理をしっかり行い、適切に肥料を与えて育てれば毎年美しい花をさかせてくれます。
藤(フジ)に肥料を与える時期とやり方
地植え
寒肥
寒肥とは、冬の休眠期の庭木や果樹に与える肥料で、時期は12月下旬~2月頃に行います。元肥(もとひ・もとごえ)ともいわれることもあります。樹木が目を覚ます前に寒肥を与えることにより、元気な新芽がでてきます。
1年のうちで最も大切な肥料で、寒肥がしっかり施肥できれば追肥が不要なこともあります。またこの時期に有機肥料を施すと、有機質の肥料は冬の間に分解され、春の芽吹きのころにゆっくりと効果を発揮します。肥料効果が長く続く緩効性や遅効性の肥料を施し、春先の成長に備えて、土に栄養分を与えるとともに、土壌改良の効果も期待できます。
- 株元から30㎝~40㎝のところに円を描くように30㎝ほど土を掘り起こします。(周りを掘り起こせない場合は2・3か所穴を掘ってもOK)
- 掘った溝に油かすや骨粉などの有機肥料を入れ、次に腐葉土などの堆肥をいれて混ぜ合わせます。
- 掘り起こした土を戻し入れます。
お礼肥
お礼肥は追肥の1つで、花後や果実の収穫後に樹勢を回復させるため施す肥料のことで、花木や果樹それぞれに合わせたタイミングで行います。疲労している木の回復を助けるために施すので、速効で効果のある化学肥料(化成肥料)が利用されることが多いです。
藤には、花が咲き終わった後にお礼肥を施します。化成肥料を株の周りにばら撒いて土とかるくまぜておきましょう。花が咲かずにつるが伸びている場合は、追肥は不要です。
鉢植え
![藤の鉢植え](https://www.noukaweb.com/assets/uploads/2024/05/wisteria-pot.jpg)
鉢植えの場合も、肥料は寒肥とお礼肥が基本です。苗を購入して鉢に植え替える場合には、元肥入りの花木用の培養土などを使うとよいでしょう。
寒肥は、2月頃に緩効性肥料を施します。鉢植えの場合には、臭いが気になる人は化成肥料か、臭いが少ない有機入りの化成肥料がおすすめです。追肥は、花後に速効性の化成肥料を施しましょう。その後は葉色が薄くなるようなら液体肥料などを水やり代わりに与えましょう。
藤(フジ)におすすめの肥料
マメ科の藤の肥料は、通常の花木と同じように与えると肥料過多になる場合があります。それは、マメ科特有の性質にあります。マメ科の植物は、根っこに瘤(こぶ)のようなものがたくさんあります。これは根粒(こんりゅう)と呼ばれ、中には根粒菌という土壌微生物が共生しています。この根粒菌が植物に欠かせない窒素を作り出しているのです。
そのため普通の植物と同様に窒素を与えると、窒素が多すぎて葉や茎が大きく育ちすぎて、そちらに栄養がいってしまうため花が咲かないこともあります。
そのため藤に与える肥料は、窒素を控えめにする必要があります。できれば窒素(N)を控え、花をつけるのに必要なリン酸(P)とカリウムを高めた肥料がおすすめです。
また地植えでは、有機質肥料や堆肥などを使うと、土壌微生物の活性が高まり、排出性・保水性・通気性のよい土壌を作ることができるので、冬に施肥する寒肥には有機肥料がおすすめです。
固形肥料
油かす
油かす(油粕)肥料は、ナタネやダイズから油を搾る工程の残りかすを原料として使用する、植物に由来する有機(有機物)肥料です。窒素(チッソ)を主な成分として含有しており、リン酸やカリウムも多少含んでいます。庭植えの元肥によく使われます。
油かすだけでは、リン酸やカリウムが足りないので骨粉などと合わせて使うとよいでしょう。未発酵の油粕は根に当たると肥料焼けしてしまう危険があるため、使い慣れていない人は発酵済の油粕をつかいましょう。骨粉や魚粉などと組み合わせてリンやカリウムを高めている肥料もあります。
お礼肥・寒肥(JOYアグリス)
お礼肥 寒肥は、JOYアグリスが販売する肥料です。米ぬか100%の有機質肥料でペレット状になっているので使いやすい肥料です。有機質肥料は、腐葉土や堆肥と同じくゆっくり長く効く肥料なので寒肥(元肥)としてぴったりですが、この製品はお礼肥や追肥としても利用することができます。N(チッソ):2 P(リン):5 K(カリウム):3 Mg(マグネシウム):1で、リンとカリウムが多く、窒素が控えめなので藤に使いやすい肥料です。
ハイポネックス マグァンプK
鉢植えにはハイポネックスの元肥の定番肥料の粒状肥料のマグァンプKがおすすめ。「チッソ・リンサン・カリ」植物の生育に必要な三要素は勿論、マグネシウムやアンモニウムなどの二次要素・微量要素もしっかりと配合されていて、元肥に申し分ありません。藤には土にしっかり混ぜて、約2年効果が続く、大粒を植え替え時に使うとよいでしょう。
化成肥料
化成肥料8-8-8などの窒素・リン酸・カリウムが均等に入った肥料は速効性があるため追肥におすすめです。肥料の後ろの数値は、肥料分がどれぐらい肥料が入っているかを表しています。8・8・8は肥料100gの中に肥料分が各8gづつ入っています。初心者の人には肥料成分がそれほど高くないため、肥料の施しによる失敗が少ないのでおすすめです。
液体肥料
液体肥料は、鉢植えの追肥として水やり代わりに与えたり、葉色が薄くなってきた場合などに速効性のある肥料としておすすめです。液体肥料はハイポネックス原液やマイガーデン植物全般用などが使えます
肥料の基礎知識
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そもそも肥料ってなに?
肥料の定義は肥料取締法で決まっています。肥料は土壌に科学的変化をもたらし、植物が健全に育つように土地に施されるものを言います。つまり、農作物(植物)の健全な生育に欠かせない栄養を与えるものです。
農作物(植物)が育つためには窒素やリン酸、カリウムの三大要素のほか、微量要素などが必要です。大雑把にはなりますが、窒素(N)は葉肥(はごえ)、リン酸(P)は実肥(みごえ)、カリ(K)は根肥(ねごえ)と呼ばれています。肥料の箱や袋などに記載されているN-P-Kの表示はこれらを指しています。
植物は土に根を張り、それらの養分を吸い上げて成長しています。そのため、土壌中の栄養分は植物が吸い上げることにより、どんどん乏しくなっていきます。それを補うために土壌に肥料を施すことを「施肥」と言います。
肥料を与えるタイミング 元肥と追肥
用土に肥料を与えるタイミングによって、肥料の呼び名が変わります。具体的には、「元肥」と「追肥」があります。
苗を植え付け(定植する)前に予め土壌へ施しておく肥料を「元肥(もとひ・もとごえ)」と言います。元肥は、初期生育を助ける働きがあり、肥料効果が長く続く緩効性や遅効性の肥料を施すのが一般的です。
苗の植え付け後(定植後)、作物が生長していくときに、土壌の肥料切れが起こらないように追加で施す肥料を「追肥(ついひ・おいごえ)」と言います。追肥を施す時期が遅れたりすると、植物の生育期に葉の色が薄くなったり、花が小さくなったりして最悪の場合、枯れてしまいます。特に窒素、カリウムは消費されるのが早いので適切な時期に追肥が必要です。
肥料の種類
作物・植物の栽培における肥料の種類は、大きく以下のとおりに分けることができます。
肥料はその物質の有機、無機によって、「有機肥料(有機質肥料)」「化学肥料(≒無機質肥料、化成肥料は化学肥料に属します)」の2つに分けることができ、形状によって、「固形肥料」と「液体肥料(液肥)」があります。
「化学肥料」とは、化学的に合成しあるいは天然産の原料を化学的に加工して作った肥料です。「有機肥料(有機質肥料)」とは、「油粕や米ぬか、腐葉土など植物性の有機物」「鶏糞(鶏ふん)、牛糞(牛ふん)、馬糞や魚粉、骨粉などの動物性の有機物」を原料にして作られたものです。堆肥も、家畜の糞や落ち葉などの有機物を微生物によって分解・発酵したもので、有機肥料となります。有機肥料は、用土(培土)を養分を補うだけではなく、物理性の改善(ふかふかにする)にも役立ちます。
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大きな植木鉢で用土を使う場合は、植え付け時や植え替え時に緩効性の化学肥料や臭いの少ない有機肥料を元肥として十分に施し、その後生育を見ながら液体もしくは固形の化成肥料を追肥として施していくと良いでしょう。
防ぎたい!肥料にまつわるトラブルあれこれ
花が咲かないのは肥料のせい?
藤の花が咲かない原因は肥料だけでなありません。窒素過多になり、葉やつるばかり伸びてしまっている場合は肥料過多の可能性があります。その場合は追肥を控えてみましょう。
その他にも日当たりや、水やりなどが原因のこともあります。また花つきを良くするには、剪定も大切な作業です。藤は日当たりの良い場所を好み、乾燥に弱いので鉢植えなどでは、場所や水やりを見直してみましょう。枝やつるが大きくなって日を遮ってしまっていることもあります。間引き剪定も行いましょう。
肥料は絶対混ぜないで!
よくある失敗として、いろいろな肥料を混ぜて高い栄養素の肥料を作り与えようとしてしまうことが挙げられます。肥料を混ぜると化学反応を起こし、植物自体に被害が出るだけでなく、有害物質・ガスが発生したりと、大きな事故につながる危険性があります。くれぐれも、肥料同士を原液で混ぜることはしないでください。
まとめ
庭木として人気のノダフジとヤマフジ。つるが右まきなのがノダフジで花穂の長さが20cm以上にもなります。ヤマフジはつるが左巻きで、花穂の長さは15cm~20cmほどで山に自生しています。
樹齢の長い藤は、観光名所ともなり花が垂れ下がる様子は美しく、海外でも人気がでています。矮性種の一才藤は盆栽としても人気があります。ぜひ美しい藤を、ご家庭で育ててみてください