作物を栽培していると、収量も品質も気になってくるものです。土の活力や地力を上げることが重要で、それには微生物と肥料が関係しているといった話を耳にしたことがあるかもしれません。
この記事では、微生物と肥料の関係を解説します。
微生物とは?
微生物とは目に見えないくらい微小の生物の総称で、大きさは概ね1mm以下のものをよぶことが多いです。そのうち、土の中に生息するものを土壌微生物とよびます。代表的な土壌微生物に、細菌(バクテリア)、糸状菌、放線菌、センチュウなどがいます。
自然界では、土壌微生物がお互いに拮抗し合いながら多様性を保っています。土壌中に多様性があることで、作物にとっての病害虫も抑制されて、病気や害虫に対して農薬を散布することも少なくできるといわれています。
植物の根と微生物の関係
植物の根と微生物には密接な関係があります。根の張っている周辺を根圏と言います(厳密には植物の根の分泌物と土壌微生物とによって影響されている土壌空間)が、根圏の微生物にもさまざまな種類がいて、それぞれの役割を担うことで共生関係が保たれています。
微生物は、有機物を分解し、アンモニアやリン酸などの栄養分に変えて、根から吸収しやすい形にしてくれることは先ほど説明しました。根圏にいる微生物も同様の働きで根に吸われやすい栄養分に分解してくれているのです。
また、植物が光合成で作った糖やアミノ酸などは根からの分泌され、微生物のエサとなります。菌糸を根に伸ばして養分をやり取りする「菌根菌」、土の中にいながら、大気中の窒素をとりこんで植物の成長に必要なアンモニアにしてくれる「根粒菌」など、たくさんの微生物がいますが、根と微生物が手を取り合って共存しているのですね。
しかし、養分のやりとりを繰り返しているうちに、一定の微生物が根のまわりに居座りがちになります。これが悪化すると異常繁殖して他の微生物が共存できない状態になり、根圏や土壌の微生物のバランスが悪くなります。その結果、植物が養分を吸収できずに弱ったり、弱った根から植物の中へ入り込んでくる微生物(病原菌)に侵される危険性が増します。
センチュウ類などの病害虫が蔓延る土壌も微生物のバランスが崩れている可能性が大きいです。連作障害でうまく作物が育たないという事象も微生物のバランスが一つの原因です。根に欠かせない存在であった微生物たちもバランスが崩れると病害虫にやられる原因になり得るのです。
微生物と有機肥料、どのような関係があるの?
有機肥料(有機質肥料)とは、動植物由来(油粕や米ぬかなど植物性の有機物、鶏糞や魚粉、骨粉などの動物性の有機物)の原料を使って作られている肥料を指します。表示された成分以外にも生育に必要な成分(動植物由来のアミノ酸など)が含まれていることもあります。
有機肥料は、有機物を土壌微生物が分解することで、植物が吸収できる養分に変化します。そのため、肥料の効き始めがやや遅く、肥効が長く続きやすい肥料が多いです(緩効性肥料、遅効性肥料)。
有機物を土壌微生物が分解や発酵することで、植物が根から吸収できる養分に変化させます(この過程で生じるものが腐植で、土壌環境の改良にもつながっています)。そのため、肥料の効き始めがやや遅く、肥効が長く続きやすい肥料が多いです。
微生物は土壌において、有機肥料の栄養分を植物が吸収しやすい形に変えてくれる大事な存在なのです。
また、ぼかし肥料(ボカシ肥料)は、微生物の力を借りて植物にすぐに効く速効性の肥料にしたものを指します。有機物(米ぬかや鶏ふん、モミガラや生ゴミなど)に微生物を添加したり、微生物が活発に活動しやすい環境を作り増殖させ、有機物の分解を進めます。土壌で行われる有機物分解の過程を意図的に早めるといった考え方をするとわかりやすいかもしれません。
ぼかし肥料を作るときに必要な微生物に関する前提知識として、以下の3点があります。
- 発酵の方法は「好気性発酵」と「嫌気性発酵」の2つがある。
- 「好気性発酵」は、空気(酸素)のある状態で活動する微生物(好気性菌)の働きで有機物を分解し、発酵させること。好気性菌には、こうじ菌、納豆菌、酢酸菌などがある。
- 「嫌気性発酵」は、空気(酸素)に触れない状態で活動する微生物(嫌気性菌)の働きで有機物を分解し、発酵させること。乳酸菌や酵母菌は条件的嫌気性菌である。
微生物、ぼかし肥料に興味を持った方は下の記事もご覧ください。
微生物と化学肥料、どのような関係があるの?
化学肥料とは、化学的に合成、あるいは天然産の原料を化学的に加工して作った肥料です。有機肥料(有機質肥料)は動植物質を原料とした肥料(堆肥や米ぬか、骨粉など)です。
化学肥料は大きく2つに分けることができます。
- 「単肥(たんぴ)」:無機養分一つのみを保証する肥料
- 「複合肥料」:窒素、りん酸、カリウム(加里)のうち二つ以上の成分を保証する肥料
化学という言葉のもつ人工的な響きからか、化学肥料の施肥により土壌微生物を死滅させてしまうようなイメージをもたれることがありますが、それは誤解です。他方、化学肥料に含まれるチッソ(窒素)、リンサン(リン酸)、カリ(カリウム)などの成分は、そのまま植物に吸収されるので、土壌微生物はエサを得ることができません。その結果、長期間化成肥料のみを使い続けると土壌微生物が減少し、土壌中の多様性が損なわれるという指摘もあります。
有機肥料と化学肥料と微生物を正しく理解し、相互の特長を活かしながら施肥をしていくと植物が育ちやすい環境を作れると思います。
おすすめの微生物肥料
肥料を撒くのと同じ感覚で微生物まで添加できてしまう便利な製品があり、これを微生物肥料とよぶことがあります。有用な微生物の増殖を促進することで、病原菌の増殖を抑制し、土壌環境を整える働きがあります。
これまで述べてきた通り、土壌微生物には多様性があることが重要です。その多様性をつくるきっかけとして、こちらでご紹介する実績のある製品を使ってみるとよいでしょう。農薬の散布回数減少などのほか、作物の収量や品質の向上も実感できるはずです。
バイテクバイオエース
サカタのタネが製造販売する微生物肥料です。バイテクバイオエースは、国産杉材おがくずと鶏ふんをベースに、バチルス属のバイオ21菌株という微生物を添加した良質な有機肥料です。使い方も簡単で、元肥として播種や定植の前に混ぜることはもちろん、追肥として液肥のかたちで利用することも可能です。
Dr. 放線菌
オキのアルム事業部(アルム農材)が製造販売する特殊肥料(有機JAS適合品)です。フザリウム、リゾクトニアなどの病原性糸状菌に強い拮抗性のある放線菌を自然界から選別し、独自の製法で高密度で製品化に成功したものです。プロ農家にも使われていて、実績があります。
OKY-999
オキのアルム事業部(アルム農材)が製造販売する特殊肥料(有機JAS適合品)です。米ぬかや大豆などを原料とする堆肥に、培養した乳酸菌、放線菌、酵母菌、光合成細菌といった微生物を添加しています。複数の微生物を含有しており、「総合風邪薬のような役割」とのこと。粒もしくはペレットタイプなので、使い勝手にも優れています。プロ農家にも使われていて、実績があります。
ぼかし肥料の種菌としても利用できます。
連作障害軽減材
自然応用科学が製造販売する資材です。肥料ではないので、肥料成分(栄養)を土に施したくない場合には特にぴったりです。バーミキュライトおよびゼオライトに、VS菌という微生物を吸着させています。トマト、キュウリ、ピーマン、スイカなど連作を嫌う果菜類(果実を食用とする野菜)に有効ですが、葉菜類(葉を食用とする野菜)等どんな作物にも利用できます。土か堆肥と混和して使えばOKです。
ぼかし肥料もおすすめ!
ぼかし肥料(ボカシ肥料)も土作りのときに施せば、微生物が増殖し土壌の微生物のバランスが改善する効果があります。元肥として施肥すると良いでしょう。ただし、ぼかし肥料は原料の有機物によりますが窒素成分も多く含み、速効性があるため施用量には注意しましょう。
微生物肥料を購入したいときには?
ホームセンターなど店舗で購入する
上記で紹介した肥料は、コメリなどのホームセンターでも販売されています。また、ダイソーなどの100円均一でも販売されていることがありますが、取り扱いのない店舗も多いようなので注意が必要です。
通販で購入する
店舗で実物をみて購入することも良いことですが、「その店舗での取り扱いがない」ことや「そもそもその商品がホームセンターなどの小売店で販売されていない」ことも多いです。時間とお金を節約するため、積極的に通販(インターネットショッピング)を利用しましょう。今ではAmazonや楽天市場など様々なECサイトで農業・園芸用品が取り扱われています。店舗よりも安く購入できる場合も多いですので、一度のぞいてみましょう。