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シンクイムシ

シンクイムシを駆除、防除する農薬、農薬以外の防除方法について

モモシンクイガに食害された梨 シンクイムシ

シンクイムシは昆虫綱鱗翅(りんし)目のメイガの仲間で、野菜や果樹の身や新芽、芯部を食べ散らかしてしまいます。トウモロコシを食べるアワノメイガなどが有名ですね。

ここではシンクイムシとはどういう虫なのか、その特性と、シンクイムシを駆除、防除するための農薬、またその他の効果的な方法についても解説します。

そもそも、シンクイムシはどういう害虫?

シンクイムシとは?

シンクイムシ(芯喰い虫)とは、植物の中に潜り込む昆虫の中で茎、実、芽などを食べる昆虫の総称です。主なシンクイムシは、農業でよく出てくるのは下記になります。

シンクイガ科モモシンクイガ
ハマキガ科ナシヒメシンクイ
ツトガ科アワノメイガ
ハイマダラノメイガ(ダイコンシンクイムシ)
アズキノメイガ(フキノメイガ)

それぞれの生態、外観をまとめると、以下のようになります。

種類名アワノメイガモモシンクイガナシヒメシンクイハイマダラノメイガ
(ダイコンシンクイムシ)
アズキノメイガ
(フキノメイガ)
体長(幼虫)5mm~2cm〜約12mm〜約10mm〜約15㎜〜約25㎜
黄白色で頭は茶色
成虫はオレンジ〜クリーム色)
全体が橙赤色
(成虫は灰白色で銀灰色の鱗毛で覆われる)
全体が淡褐色胴部は乳白色の地色に褐色の縦線、頭部は黒雄の前翅は暗褐色、各横線、紋周辺に黄色斑
生態
特徴
5~9月の間に3回程度発生。
生育サイクルは、幼虫から蛹を経て成虫になるまでで、約1カ月程度。
蛹から羽化した成虫は、生きている間に2~3回産卵する。
冬は土中で繭をつくり幼虫態で越冬する。
越冬幼虫は4~5月になると冬まゆから脱出し、蛹になり、6月上旬頃から羽化が始まり,6~8月成虫になる。
寒冷地以北では年4回発生。
越冬は成熟幼虫で粗皮下、枝のすきまなどに粗い繭を作って越冬する。
年5~6回の発生し、幼虫で越冬。
被害が多いのは7~9月ごろ。葉裏に1粒ずつ産卵、株元に筒状の繭をつくり蛹になる。
年2〜3回の発生。
越冬は食入した茎の中で成熟幼虫で行う。
アワノメイガの幼虫
出典:HP埼玉の農作物病害虫写真集 アワノメイガの幼虫
モモシンクイガの幼虫
出典:HP埼玉の農作物病害虫写真集 モモシンクイガの幼虫
ナシヒメシンクイの幼虫
出典:HP埼玉の農作物病害虫写真集 ナシヒメシンクイの幼虫
アズキノメイガ (フキノメイガ)の幼虫
出典:HP埼玉の農作物病害虫写真集 アズキノメイガの幼虫

どうしてシンクイムシは害虫なのか?

シンクイムシ(芯喰い虫)は、植物の実の中や芯部(生長点)に潜り込んで茎、実、芽などを食べ、激しく食害します。(下記写真参照)

食害の程度も非常に大きく、収穫しても売り物にならなかったり、枯死したりと、甚大な被害が出てしまいます。

モモシンクイガに食害された梨
出典:HP埼玉の農作物病害虫写真集

シンクイムシはどの種類も中に潜り込んで食害しますが、加害具合はそれぞれ特徴があり、異なっています。例えば、モモシンクイガは食入孔が非常に小さいため、外から穴を発見することが困難だったり、逆にナシヒメシンクイは芯折れを発生させ、食入孔は大きかったりします。

シンクイムシを防除する際のポイント

シンクイムシは代表的な害虫のため、下記のように、シンジェンタジャパンや住友化学園芸などのメーカーから多くの適用農薬が販売されています。下記の農薬(殺虫剤)は、基本的に成虫、卵の状態に散布しても駆除することはできません。

果実の内部にいる幼虫には農薬を散布できないので、殺虫剤の効果を出すのは難しい害虫です。早めの防除が大変重要になってきます。また、成虫をハウス内に入れないようにする、捕殺するなど、科学的防除だけでなく、物理的防除も合わせた、IPM(総合的害虫管理)が大事です。

IPM(総合的害虫管理)とは?

農地を取り巻く環境や病害虫の対象種の個体群動態を考慮しつつ、「生物的防除」「化学的防除」「耕種的防除」「物理的防除」を組み合わせることで、病害虫の発生を経済被害を生じるレベル以下に抑えることをいいます。

  • 「生物的防除」 病害虫の天敵を導入し、病害虫密度を下げる防除法
  • 「化学的防除」 化学薬剤を使用して行う防除法
  • 「耕種的防除」 栽培法,品種、圃場の環境条件等を整え、病害虫の発生を減らす防除法
  • 「物理的防除」 防虫ネット、粘着トラップ、光熱等を利用して病害虫を制御する防除法

(IPM・・・Integrated Pest Management)

シンクイムシに効く代表的な農薬

有機リン系 エルサン、オルトラン、スミチオンなど

有機リン系殺虫剤は殺虫剤の中でも、昆虫の神経系を阻害するタイプで、殺虫剤の代表的なタイプです。代表的な有機リン系農薬は、エルサンオルトランスミチオンがあり、どちらもアワノメイガに効く農薬です。スミチオンについては下記をご参考ください。

ネオニコチノイド系

ネオニコチノイド系とは、90年代に登場した比較的新しい殺虫成分で、ニコチンの仲間です。ニコチン性アセチルコリン受容体と結合し、信号の伝達を阻止し、結果、昆虫は麻痺し、死に至ります。

浸透性、速効性、持続性が優れていることや幅広い殺虫スペクトラムを持つため、現在非常によく使用されている殺虫剤です。ネオニコチノイド系農薬については下記で詳しく説明しています。ご参考ください。

家庭園芸でよく使われる住友化学の「ベニカベジフルVスプレー」や「ベニカXファインスプレー」「ベニカXネクストスプレー」「ベニカベジフルスプレー」は、ネオニコチノイド系のクロチアニジンを成分にしています。

パダン

パダンは、カルタップ塩酸塩を有効成分とした殺虫剤で、アワノメイガはもちろん、稲のコブノメイガ、ニカメイチュウ、イネツトムシ、茶のチャノホソガなどのような作物の茎葉を食害する害虫に特にすぐれた効果を示します。

また、有機リン系とは異なるRACコードで、害虫の抵抗性、耐性が見られる場合や、ローテーション散布に利用しやすい農薬であるといえます。

パダンは遅効性なので、パダンをベースとしつつ、目視で、雄穂が折れている、雌穂を包む葉に穴が開いているなど、発生がすでに検知される場合は、即効性(速攻性)があるスミチオンをピンポイントで散布する、という使い方で成果を出されている方もいます。

シンクイムシに効く農薬一覧表

RACコード別に分類した、シンクイムシに効く代表的な農薬は以下のようになります。

IRACコードグループ名アワノメイガ
1B有機リン系エルサン
オルトラン
カルホス
スミチオン
ダイアジノン
ダーズバン
3Aピレスロイド系アディオン
トレボン
ロディー
4Aネオニコチノイド系ダントツ
アクタラ
アルバリン
6アベルメクチン系
ミルベマイシン系
(マクロライド系)
アファーム
11ABT剤エスマルクDF
ゼンターリ
14ネライトストキシン類緑体パダン
15ベンゾイル尿素系(IGR)カスケード
28ジアミド系フェニックス
ベネビア
UNプレオフロアブル

※農薬を使用する際にはラベルをよく読み、用法・用量を守って薬害等に注意してお使いください。

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RACコードとは??

RACコードとは、農薬を作用機構(農薬の効き方)ごとに分類して番号と記号を振ったコードになります。

例えば殺虫剤なら有機リン系は[1B]、ネオニコチノイド系は[4A]など、すべての農薬にRACコードが設定されています。

同じRACコードの農薬を繰り返し使うと害虫や病原菌に抵抗性がついてしまうのを、RACコードが違うコードの農薬を交互に使うことで防ぐことができます。「系統」とも呼ばれますが、RACコードの方が、より厳密に分類されています。 

殺虫剤は、IRAC(アイラック)コード、殺菌剤にはFRAC(エフラック)コード、除草剤にはHRAC(エイチラック)コードになっています。

殺虫剤はシンクイムシ類だけでなく、アザミウマ類、カイガラムシ類やハダニ類、アブラムシ類、ヨトウムシコナジラミコガネムシハスモンヨトウネキリムシ、ヨコバイ、ハモグリバエ(エカキムシ)、ハマキムシ、イラガ、カメムシウンカオオタバコガ、カミキリムシ、ケムシ、テントウムシダマシナメクジアオムシ、ゾウムシ、ハムシ、カキノヘタムシガ、ハリガネムシハリガネムシ、ネコブセンチュウなど幅広い殺虫スペクトラムを持つものも多いので、うまく活用しましょう。

上記の農薬は水で溶かして薄めて使用する液剤や水溶性の粉剤、粒状、粒タイプです。希釈方法等については下記をご参考ください。

生物農薬

生物農薬とは、「農薬の目的に使われる生物を使い、病害を防除する農薬」のことを言います。

その生物とは主に、昆虫、線虫、微生物で、害虫(例えばアブラムシやアザミウマ、コナジラミ、チョウ目の食害する虫など)を捕食する、天敵に当たる昆虫や、昆虫に寄生するもの、センチュウ、また病原菌にあたる生物になります。

天敵導入による防除は、名前でこそ「生物農薬」と呼ばれますが、化学農薬ではなく、有機JASでも勿論使用可能です。

シンクイムシ対策に使えるおすすめの生物農薬は、微生物殺虫剤、BT殺虫剤があります。

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生物農薬は、在来種以外の天敵昆虫を使用することが多く、本来の生態系に影響を与える恐れがある為、閉鎖系の圃場以外では使用、散布し難いものがあるなどの注意点もあります。

その他、生物農薬については下記に詳しく、具体的な製品も紹介していますので、ご参考ください。

物理的 耕種的防除

フェロモントラップを設置する

蛾を捕殺するフェロモントラップ

フェロモンルアーと呼ばれる蓋があるバケツのようなトラップの容器にフェロモン剤を設置することで、蛾の成虫を誘引・捕殺することができます。畑地の周りに設置すると、シンクイムシの成虫を捕殺できます。

フェロモン剤を使う

フェロモン剤とは、圃場を偽の雌性フェロモンで満たす薬剤で、交信かく乱効果があり、害虫の交尾を抑制、阻害し、交尾が減るのでどんどん害虫が減る、という仕組みです。

シンクイムシをはじめ、様々な種類の害虫に効くフェロモン剤が販売されています。

信越化学工業 フェロモン剤活用ガイド

コンパニオンプランツと栽培する

コンパニオンプランツとは、近くで栽培することでお互いの作物に良い影響を与え、共栄しあう複数の植物の組み合わせ、またそれに該当する植物のことを言います。

トウモロコシとマメ科の植物はコンパニオンプランツとして有名で、とうもろこしの周りにマメ科(例えばインゲンやエダマメ(枝豆))の植物を植えると、アワノメイガは寄り付きにくくなる効果があります。

防虫ネット、有袋栽培

防虫ネットは物理的に農作物に近づけさせなくするので有効です。

また、果樹栽培で果樹を袋に包むことで防除を行う方法もあります。これは全てにシンクイムシに有効ではありませんが、モモシンクイガには有効です。

果実の内部にいる幼虫には農薬を散布できないので、発生初期の早めの農薬による防除、また捕殺等が大変重要になってきます。

しっかり除草する

圃場の周りに、雑草があると、オオタバコガの発生を促進してしまいます。圃場の周りの雑草はできるだけこまめに除草するのが、害虫被害を少なくするのに極めて重要です。

除草については、以下のコンテンツが参考になります。

その他

この他、防除方法としては、イースト菌の発酵液を畑の中に置くことでアワノメイガの被害が減るという説があります。明確な理由は解明されていませんが、この方法で成果を出されている農家の方は存在しています。

やり方は、500mlのペットボトルを用意し、150mlほどのぬるま湯をベースに、イースト菌、ハチミツを希釈倍率20倍で投入し、混ぜます。

そのペットボトルを目安5m2に1本づつ、出穂間近の圃場に置く、という簡単な方法です。

まとめ

シンクイムシ類は成熟したかんきつ、桃などの果実だけでなく、果菜類や葉菜類、豆類、苗、蕾、結球部、果実、茎と何でも食入り、食害が大きく、農家の方にとっては収穫に影響を及ぼす非常に厄介な害虫です。防除方法を組み合わせて、より適切な防除の一助となれば幸いです。

ここで紹介した農薬は、JA販売店やホームセンターのガーデニング・資材、庭木コーナーにあるものもあります。ほ場で早期発見し、適切な薬剤や防除方法でしっかり発生を予防、ガードできると、農薬散布と言った農作業の回数を減らすことができます。

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