ネオニコチノイド系農薬とは?
ネオニコチノイド系農薬とは、クロロニコチニル系の殺虫剤のことを指します。ネオニコチノイドは比較的新しく開発されたニコチン類似物質です。
殺虫剤は、大きく有機塩素系・有機リン系→カーバメート系→合成ピレスロイド系と変遷し、ネオニコチノイド系はそれらに抵抗性を持った害虫にも殺虫効果をもたらすことから、1990年代から殺虫剤の中で主流となり、現在世界100ヵ国以上で使用されています。
ネオニコチノイドは、昆虫の神経細胞のシナプス部分の後膜に存在する神経伝達物質のアセチルコリンの受容体である「ニコチン性 アセチルコリン受容体(nAChR)」に結合し、神経細胞を興奮させ続ける事で、死に至らしめる効果をもっています。致死濃度以下でも、食害や交尾、産卵や飛行など、虫のあらゆる行動が減少します。
RACコード(系統)は「4A」で、主なネオニコチノイド系農薬としては、アクタラ、アドマイヤー、アルバリン、ガウチョ、クルーザー、スタークル、ダントツ、バリヤード、ベストガード、モスピラン、ワンリードなどがあります。
RACコードとは、農薬を作用機構(農薬の効き方)ごとに分類して番号と記号を振ったコードになります。
例えば殺虫剤なら有機リン系は[1B]、ネオニコチノイド系は[4A]など、すべての農薬にRACコードが設定されています。
同じRACコードの農薬を繰り返し使うと害虫や病原菌に抵抗性がついてしまうのを、RACコードが違うコードの農薬を交互に使うことで防ぐことができます。「系統」とも呼ばれますが、RACコードの方が、より厳密に分類されています。
殺虫剤は、IRAC(アイラック)コード、殺菌剤にはFRAC(エフラック)コード、除草剤にはHRAC(エイチラック)コードになっています。
ネオニコチノイド系農薬の特徴は?
残効性
ネオニコチノイド系の特徴としては、水溶性が高く、植物への浸透移行性が強いため、非常に効果が高いこと、そして残効性があることが挙げられます。
このため、農作物の生産において、労働時間の削減、害虫予防や、他の殺虫剤の散布回数削減に貢献しています。
幅広い適用作物と殺虫スペクトラム
ネオニコチノイド系農薬は、ラベルを見ていただくとお分かりの通り、稲、果菜類、キャベツなどの葉菜類を含む様々な野菜、茶葉、かんきつ含む果樹まで、非常に幅広い農産物の適用作物があります。
また、適用病害虫も、アブラムシ類、コナジラミ類、ウンカ類、ヨコバイ類、カメムシ類、コナカイガラムシ類などのカメムシ目害虫、アザミウマ目害虫に加えて、ハモグリバエ、ハモグリガ、ホソガ、シンクイムシ、カミキリムシなどハエ目、チョウ目、コウチュウ目害虫など、非常に幅広く、かなりの種類を防除できます。
抵抗性がある害虫に効果
ネオニコチノイド農薬は新しいタイプの農薬なので、従来の主流だった、有機塩素系・有機リン系、カーバメート系、合成ピレスロイド系に抵抗性を持つ害虫にも、殺虫効果を発揮します。
ネオニコチノイド系農薬一覧について?
ネオニコチノイド系の種類は、ネオニコチノイドと呼ばれる化学物質7種(アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、ニテンピラム)とフィプロニルの計8種を「ネオニコチノイド系化学物質」と総称することが多いです。
大まかなタイプ、一覧は以下のようになります。
種類 | 系統 | 主な商品名 |
---|---|---|
クロチアニジン | ニトログアニジン系 | ダントツ ベニカ |
ジノテフラン | ニトログアニジン系 | スタークル |
チアメトキサム | ニトログアニジン系 | アクタラ |
ニテンピラム | ニトロメチレン系 | ベストガード |
アセタミプリド | ピリジルメチルアミン系 | モスピラン マツグリーン イールダーSG アリベル |
チアクロプリド | ピリジルメチルアミン系 | バリアード カリプソ |
イミダクロプリド | ピリジルメチルアミン系 | アドマイヤー メリット |
ネオニコチノイド系にまつわる論点
ネオニコチノイド系農薬は、その強い効果、非常に幅広い殺虫スペクトラム、残効性から、人体や生物、生態系に対して影響があるのではないかといった、様々な懸念、論点があります。
生態系への影響が強い?
ネオニコチノイド系はその浸透移行性、残効性の高さから、労働時間の削減、害虫予防や殺虫剤の散布回数削減に大きな効果をもたらしています。
しかし、その浸透移行性、残効性の強さが、葉の表裏だけではなく花粉や蜜にまで移行するため、これらに触れるミツバチなどの昆虫に長期にわたって影響を与えてしまう問題があるのではないか、と言われています。
また、他の殺虫剤と同様に水溶性で希釈しやすいため、汚染や、水産動植物(甲殻類)に影響を与えるので、河川、養魚田,養魚池などに飛散,流入しないように充分注意するよう、使用上の注意が記載されています。
人体への影響?
ネオニコチノイド系の薬剤は、ヒトなどの哺乳類に対して、適切な低濃度で使用する分には急性毒性は比較的低いとされています。
しかしながら、アセチルコリンは中枢神経系のみならず、自律神経でも、神経筋接合部においても作用していることから、脊髄動物に影響があるのではないかとの懸念の指摘が一部ではあります。
さらに、哺乳類がネオニコチノイドを経口摂取すると、腸管から容易に吸収されるだけでなく、血液脳関門も通過することから、人の脳にも影響を与えるのではないかという議論があります。
また、欧州食品安全機関は13年に、ネオニコのイミダクロプリド(アドマイヤーなど)とアセタミプリド(モスピランなど)について、低濃度でも人間(ヒト)の脳や神経の発達に悪影響を及ぼす恐れがあると発表しており、ネオニコチノイドは医学、科学や政策の分野において、今最も活発に議論が交わされている論点の一つと言えるでしょう。
ネオニコチノイド系の使用における各国の状況
EUでは2013年に、登録ネオニコチノイド主要5種の内3種(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)を一時使用禁止とし、欧州食品安全機関(EFSA)が4年にわたって調査を行ないました。そして2018年2月、「暴露経路によって程度は違うものの、全体的にはミツバチにとってネオニコ3種はリスクがある」と結論付け、EUは2018年4月に、屋外使用全面禁止を決定しています。フィプロニルに至っては、17年9月にEUでの登録が失効し、農業場面での使用は禁止になっています。
また、フランスは主要5種全てを禁止しており、ドイツは、7種を使用禁止にしています。
カナダやアメリカ、ブラジルでも一部地域でネオニコの使用が禁止され、台湾や韓国でもネオニコ3種の使用が制限されていて、「脱ネオニコ」「ネオニコフリー」の世界的な流れが生まれているといっても過言ではないでしょう。
逆に日本はイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、アセタミプリド及びチアクロプリドの7種は全て使用可能で、2015年以降、ネオニコチノイド成分の食品中の残留基準を緩和しています。
が、日本では、農薬の安全性を一層向上させる目的で、平成30年に農薬取締法が改正されました。これにより、農薬の再評価制度の導入や、農薬の安全性に関する審査の充実が期待されています。
特に、適用初年度の2021年度は、グリホサート、ネオニコチノイド系農薬など14有効成分が対象となっていますので、今後、ネオニコチノイド系の扱いは変わっていく可能性もあると言えるでしょう。