鶏糞とは鶏(ニワトリ)の糞で、窒素(N)、リン酸(P)、加里(K)が程よく入り、カルシウムも多いのが特徴です。リン酸が多く含まれたお手頃の肥料であるため、使いやすい印象ですが、施用にあたっては注意が必要です。
この記事では、鶏糞とリン酸の関係性と施用の際の注意点を解説します。
鶏糞(鶏ふん)とは
鶏糞とは鶏(ニワトリ)の糞で、窒素(N)、リン酸(P)、加里(K)が程よく入り、カルシウムも多いのが特徴です。
肥料成分に加えて、土壌の物理性を向上させることなどが知られており、通気性、排水性、透水性、保水性などを向上させることができます。それにともない、土壌中のミミズなどの小動物、センチュウなどの微生物の多様性も高まり、病害虫(病気と害虫)の発生も抑制されることが期待できます。
鶏糞肥料には色々な製品がありますが、大まかには以下の通り「乾燥鶏糞」、「醗酵鶏糞」、「炭化鶏糞」のように分類することができます。
乾燥鶏糞
乾燥させた鶏糞です。醗酵(発酵)処理や炭化処理をしていないため、肥効が相対的にゆっくりであることが特徴です。また、安価であることも特徴のひとつです。大量に使用する場合には養鶏場などから仕入れますが、家庭菜園やガーデニングなどで使用する場合には袋詰めされた製品から試してみましょう。相対的に臭いは強めですので、住宅街では要注意です。
醗酵鶏糞
醗酵(発酵)処理をした鶏糞です。完熟していない鶏糞を散布すると、分解にともなってアンモニアガスが発生し、植物の生育障害を引き起こすことがあります。醗酵(発酵)処理済みの鶏糞では、植物の生育障害を引き起こす可能性を小さくできるほか、臭いも大幅に緩和されている特徴があります。
東商が販売する「醗酵鶏ふん」の成分含有量は、N(窒素)-P(リン酸)-K(加里)=4.3-2.5-2.1となっています。そのほか、マグネシウムや微量要素である亜鉛なども含まれています。菜園、庭木、花壇、鉢、プランターなどで幅広く利用できます。用途としても、元肥、追肥、寒肥、お礼肥など幅広く利用できます。粉状のほか、粒状あるいはペレット状(ペレットタイプ)もあります。
炭化鶏糞
鶏糞を高温処理し、炭化させたものが炭化鶏糞です。したがって、見た目は黒い粉状で、臭いもほとんどありません。一般に、高温処理された炭化鶏糞では、窒素成分が失われています。しかし、創和リサイクルが販売する「炭化けいふん」の成分含有量は、N(窒素)-P(リン酸)-K(加里)=2.5-8.4-4.9となっているため、便利に利用できます。土壌がアルカリ性に傾くため、ブルーベリーなどの酸性土壌を好む作物や植物には不向きですが、それ以外の野菜、果樹、庭木、草花などで幅広く利用できます。
鶏糞堆肥のリン酸含有量について
鶏糞堆肥には、リン酸が多く含有されています。下記は、主な有機肥料(有機質肥料)の種類と窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の含有量のイメージ、肥効のタイプをまとめた表です。発酵鶏糞は窒素、カリウムも含まれていますが、リン酸が比較的多く含まれていることがわかります。
肥料 | N (窒素) | P (リン酸) | K (カリウム) | 肥効のタイプ |
---|---|---|---|---|
油かす(油粕) | 多 | 少 | 少 | 緩効性 |
魚かす(魚粕) | 多 | 中 | 少 | 緩効性・遅効性 (但し窒素分は速効性が高い) |
発酵鶏糞 | 中 | 多 | 中 | 速効性 |
骨粉 | 中 | 多 | – | 緩効性 |
米ぬか(米糠) | 少 | 多 | 中 | 遅効性 |
バットグアノ | 少 | 多 | 少 | 緩効性 |
草木灰 | – | 少 | 多 | 速効性 |
具体的な数値としては、窒素(N)が2〜4%前後、リン酸(P)が4〜6%前後、カリウム(K)が2〜4%前後です。各商品や状態によって、成分比が変わってきます。(出典:鶏糞の利用促進マニュアル – 山口県)
リン酸を鶏糞堆肥で補おうとするときの注意点
リン酸を鶏糞堆肥で補う施肥設計をしている際の注意点として、「土壌中にリン酸が過剰に蓄積されていないか」という点です。
鶏糞には多量の石灰(カルシウム)分も含まれているので、リン酸も難溶性となりやすいことが知られています。特にカルシウム分が高くなればなるほど、難溶性が増します。(出典:豚ぷんおよび鶏ふん堆肥のリン酸組成 – 日本土壌肥料学会)
※カルシウム型リン酸は可溶性リン酸として挙げられますが、カルシウムの比率が高まり第三リン酸カルシウムになると難溶性が増します。
また、鶏など家畜の飼料として使われるダイズ等の穀類には、有機態リン酸であるフィチン酸が多く含まれていますが、これらはフィターゼ(フィチン酸からリンを放出させる消化酵素)を持たない鶏は消化せずにそのまま糞として排出されます。よって鶏糞の中にはフィチン酸が多く含まれることになりますが、これが植物のリン酸吸収に大きく影響します。(出典:低フィチンダイズを利用したリン酸資源枯渇に対応した農業技術の開発)
※最近では、リン酸の不足を補うために無機リン酸を飼料に添加しています。
上記の理由により、リン酸が過剰となり、バランスが崩れ、亜鉛、銅など抑制を受ける成分の欠乏などの障害が発生する可能性が出てきます。鶏糞はカルシウムも多く含むので、同様に注意が必要です。
このことから、連用する場合には鶏糞の施用量を窒素だけでなく、リン酸や加里(カリウム)の量も勘案し、土壌の状況に応じた施用量にすることが必要です。(出典:土作りのススメ Vol.11 堆肥中のリン酸を上手に使う – YANMAR)
また、速効性の窒素が含まれている点にも注意が必要です。鶏糞には、速効性のある尿素が含まれているので比較的早く窒素が吸収されます。そのため、肥料焼けなどに注意が必要です。
鶏糞の購入場所
家庭菜園等で使用する肥料は、ホームセンター、100均、インターネットなどで購入可能です。肥料を購入できる主な場所・方法は以下のとおりです。プロ農家の方は、JAや資材店等に相談すると良いでしょう。