農業や園芸をする人以外にとっては、あまり耳慣れない線虫(センチュウ)という生き物。じつは、植物に寄生し、その生育を妨げたり、作物の収量を減らしたりする病害虫なのです。
この記事では、線虫(センチュウ)対策に肥料は有効か解説し、その他の対策もご紹介します。
線虫(センチュウ)とは
線虫(センチュウ)は、棒状ないし糸状の生き物で、地球上で少なくとも2万種以上が現存するといわれています。そのうち多くのものは体長数mmと肉眼では見えないほど小型ですが、中には人間に寄生する回虫のように体長30cmを超えるものもいます。農業においては、作物に寄生する線虫(センチュウ)が病害虫ということになりますので、防除する必要があります。
農業において線虫(センチュウ)はとても厄介な害虫です。一度、線虫(センチュウ)による被害に遭ってしまうとその植物体を回復させるのはほぼ不可能だと思われます。センチュウは、センチュウが発生した畑の土壌から、そこで使った機械、道具などに付着して正常な圃場に運ばれてくることによって発現する事が多いです。また、センチュウに侵された植物を他の圃場に持ち込むなども原因となります。
線虫(センチュウ)によって寄生された植物は、根などがやられてしまい栄養分が吸い上げられなくなります。日に日に弱っていく植物の姿を見ているのは辛いものがあります…
農業で被害を及ぼすセンチュウは、主にネグサレセンチュウやネコブセンチュウ、シストセンチュウとなります。これら以外にも日本国内では約11種類に分類され報告されています。
ネコブセンチュウとは?
感染すると、根が肥大化しコブのようになるのが特徴です。コブの中には雌成虫が数匹はいっていて、雌成虫には体内または尾端にあるゼリー状の卵のうに300~500個の卵がはいっています。成熟すると孵化し、孵化した幼虫は土壌中へ移動し,細根の生長点付近から組織内へ食入します。
コブになった根は、根としての機能が低下,土壌の水分や肥料を吸収できなくなってきます。その結果,茎葉が成長しなくなり、着果数も減り、奇形果など収量,品質ともに著しく劣ってしまいます。
ネコブセンチュウは約80種知られており、代表的なものは以下の通りです。
- サツマイモネコブセンチュウ
- アレナリアネコブセンチュウ
- ジャワネコブセンチュウ
- キタネコブセンチュウ
- ナンヨウネコブセンチュウ
アブラナ科の葉菜類や果菜類(キュウリ、スイカ、メロン、ナス、トマト、ピーマン)、根菜類(だいこんやニンジン、かんしょ)、また果樹類と幅広く被害を及ぼします。
ネコブセンチュウの防除方法
害虫の防除は主に、農薬を使用する「科学的防除」、天敵を使う「生物的防除」また物理的な方法等で駆除、予防を行う「物理的防除」「耕種的防除」があります。
ネコブセンチュウの具体的な予防法について、下記にまとめました。
土壌消毒(農薬・太陽熱)を行う
作物を植える前に土壌の消毒を行います。土壌消毒の方法は大きく2つあります。
- 薬剤(農薬など)による土壌消毒
- 土壌還元消毒
- 太陽熱による土壌消毒(太陽熱土壌消毒)
薬剤(農薬など)による土壌消毒
薬剤による消毒は主に燻蒸剤(くん蒸剤)を使用する方法と殺虫剤(殺線虫剤)を使用する方法があります。
くん蒸剤
土壌処理されるとガス化して、土壌中で有効成分が拡散するので、高い殺線虫効果を発揮します。ただし、特別な資材を用いることもあるので、家庭などでは難しい方法かもしれません。
基本的には、薬剤を圃場に灌注し、透明なポリエチレンフィルムなどで土壌を被覆します。温度はそれほど必要としないため、寒冷地や露地栽培、太陽熱土壌消毒が難しい時期でも使用されることが多いです。規定時間が経過したら、フィルムを剥がしてガス抜きを行う必要があります。使い方は製品のラベルを必ず確認しましょう。
主な成分、製品としては以下のものがあります。
殺線虫剤
手軽に土壌に散布できる農薬もあります。ガス化することなく消毒できる薬剤です。ネマトリンエース、ネマキック、ネマクリーンなどが有名です。ガス化しないことから家庭菜園などでも使用しやすい薬剤となっています。また、ネマトリンエースはくん蒸剤のように被覆期間やガス抜き作業の必要がなく、薬剤の処理直後から播種、定植が可能です。
土壌還元消毒
土壌還元消毒は、太陽熱消毒では十分な効果が現れにくい気温の低い高冷地などで実施される土壌消毒の方法です。土壌中にフスマやショ糖、米ぬかやエタノールなどを散布し、透明なポリエチレンフィルムで被覆して密閉します。地温30℃以上で20日間以上ハウスを密閉状態にして、土壌伝染病菌の主体を占めている好気性菌が死滅させます。
太陽熱土壌消毒
太陽熱土壌消毒は、栽培休閑期(栽培をしていない時期)に太陽熱を利用して、40℃〜45℃以上の温度を長期間持続させることで、有害な病害虫を選択的に死滅させる方法です。土壌に十分に水を撒き、透明なポリエチレンフィルムを被覆して1週間〜1ヶ月程度放置します。土壌表面温度は50℃程度となり、土壌生物を全滅させないため病原菌以外の菌もある程度生き残ることがあります(処理が不十分だと病原菌も残ってしまう場合もあります)。
基本的には密閉して温度が挙げやすい施設栽培(ハウス栽培)で実施されます。露地栽培でも実施することは可能ですが、地温を上げづらいためハウスに比べて効果が出づらいです。
薬剤を使わずに土壌消毒をする方法は、太陽熱消毒の他にも散水蒸気消毒や熱水土壌消毒などがあります。
抵抗性植物を活用する
マリーゴールド・落花生・麦・クロタラリア・ギニアグラスなど植物は、センチュウを忌避する効果をもっていることで有名です。家庭など小規模な畑で栽培する場合には、周囲にマリーゴールドを植える方法も効果的です。咲き終わったらすき込んで緑肥にするとよいでしょう。
マリーゴールドはコガネムシを寄り付けにくくする忌避植物としても有名です!
連作障害を控える
同じ科目に属する作物を連作すると、特定のセンチュウが土壌内で繁殖を繰り返し、微生物のバランスが崩れることで知られています。特定のセンチュウの増殖を防ぐためにも連絡は控えたほうが良いでしょう。
また、作物を育てる上でも連作をすると、施肥をしても土壌中の栄養バランスが崩れやすくなり作物が上手く育たないということがあるので注意が必要です。プロ農家は、連作することもありますが土壌診断を行った上で、しっかりとした施肥設計を行うことによって連作でも植物の生理障害が出ないようにしています。
何よりも大事!土壌の環境を整える
土壌の環境を整えること、これが一番大事です。土壌消毒によってセンチュウを一時的に減らすことができても土壌の環境が整わなければ、再度センチュウによる被害を受けてしまう可能性が高まります。
肥料や土壌改良材などを使用して土壌改良を考えていくと良いでしょう。家庭菜園向けに有機物を多く含んだ連作障害予防用の土や資材も販売されているようです。家庭菜園の方は、まずこれらを試してみると良いでしょう。
有機資材、石灰窒素などの資材による予防
有機資材(有機質肥料)
堆肥をはじめとして、良質な有機資材(有機質肥料)の施用は一般的に根の周り(根圏)の土壌の微生物多様性をもたらし、土壌病害の被害を抑止する効果があります。センチュウ類だけではなく、フザリウム菌類や他の糸状菌類による病害に対しても有効です。
堆肥やカニガラ、米ぬかなどの有機肥料を積極的に活用して土壌微生物の多様性を高めて、センチュウの増殖を抑制していきましょう。
石灰窒素
石灰窒素は、緩効性の窒素肥料である一方、センチュウ類に対して農薬登録されており、正しい使用方法のもと効果があることが認められています。
具体的には、主成分であるカルシウムシアナミドが土中で加水分解して生成するシアナミドによるもので、ハクサイやキャベツの根こぶ病、野菜類や豆類、イモ類の線虫類に対して農薬登録されています。
硝酸カリウム
比較的新しい研究のようですが、熊本大学と名古屋大学のグループにより、硝酸カリウムがサツマイモネコブセンチュウを忌避する効果をもつことが確認されています。
まとめ
これまでセンチュウは悪い病害虫として紹介してきました。しかし、土壌中には先述した病害の原因となるセンチュウの他にも影響を与えないセンチュウが大半です。また、土壌中にはセンチュウのほかにも様々な細菌や糸状菌、放線菌などの微生物や有機物によって、そのバランスが保たれています。悪いセンチュウを以下に少なく抑え込めるかが重要ということです。
人間の腸の中を想像してみてください。善玉菌や悪玉菌などいろいろな菌がいますよね。善玉菌が増えると腸の調子が良くなりますし、悪玉菌が増えると腸の調子が悪くなります。土壌の中も腸の中も「環境が大事」ということになりますね!
様々な防除方法を複合的に取り入れて、統合的にネコブセンチュウの防除を行うことが大事です。この記事がその一助となれば幸いです。また、センチュウに限らず、病害虫の防除には、圃場の雑草をしっかり除草することも重要です。