アザミウマ類は、薬害抵抗性のでやすい害虫で、農薬の散布は違う系統の農薬を散布することが推奨されています。では実際にはどのように行ったらよいのでしょうか。ここではアザミウマのローテーション散布について、例をつかって説明します。
アザミウマの生態
アザミウマはアザミウマ目に属する昆虫の総称で、スリップスとも呼ばれます。種類にもよりますが農作物などに被害をもたらす種類は、体長は1㎜~2㎜程度の細長い小さな昆虫で集団で葉・茎・花・果実を集団で吸汁し直接加害するほか、ウイルスも媒介するやっかいな害虫です。
発生時期は5月中旬~9月中旬、夏の乾燥した時期に発生が多くなります。ハウスでは一年中発生します。卵→幼虫→蛹→成虫までのサイクルは10~20日程度、温度が高いほど早くなり世代交代を繰り返すことから、化学農薬の散布の機会が増え、農薬が効かないいわゆる抵抗性アザミウマが発生しています。
日本国内で主に発生するアザミウマとその特徴です。
種類名 | ネギアザミウマ | ミナミキイロアザミウマ | ミカンキイロアザミウマ | ヒラズハナアザミウマ | チャノキイロアザミウマ |
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体長(成虫(雌)) | 1.1〜1.6mm | 1.2〜1.4mm | 1.4〜1.7mm | 1.3〜1.7mm | 0.8〜1.0mm |
色 | 夏:淡黄色~黄褐色 冬:褐色 | 黄色 | 夏:黄土色 冬:茶褐色 | 褐色系 | 黄色 |
特徴 | 周年発生 幅広い作物に出現 | 寒さに弱い ナスやピーマン、トウガラシ類、キュウリ、スイカといった果菜類によく発生 | ナス科、バラ科によく発生 | ピーマン、トウガラシ類、トマト、イチゴ、バラ科を中心に幅広い作物で発生 | 茶やブドウ、かんきつを中心に幅広い作物で発生 |
アザミウマの防除方法
アザミウマの防除は、まず発生しているアザミウマの種類を見極めましょう。アザミウマ類に適用のある農薬は多くありますが、種類によって効果が異なります。
化学農薬を散布する場合、異なる系統の農薬を散布するローテーション散布が基本です。アザミウマのローテーション散布は害虫の1世代を1ブロックととし、隣り合うブロックでは同じ系統の農薬を散布しない、ブロック式ローテーション(世代間ローテーション)がよいとされています。
ブロック式ローテーションについては下記で詳しく説明しています
しかしアザミウマは世代交代が早く、成虫は30日程度生きることから、親、子、孫と3世代がかぶる時期もあるとされ、5~7日ごとに農薬を散布する場合、長期的に散布が必要な場合は、6~8系統の農薬が必要になります。
そのため化学農薬だけに頼らない生物的、物理的、耕種的防除法を取り入れたIPM防除体系を組んで、統合的に実践することが重要です。
農薬ローテーションのやり方(例)
では実際のネギ栽培でのネギアザミウマを例としたローテーション散布のやり方について説明します。(地域によりすでに抵抗性が発生している農薬がある場合もあり、圃場の状態、地域、発生状況でも散布方法は変わりますので、あくまで一例です。実際の散布ではJAや営農指導員などに相談しましょう)
①散布する農薬を決める
まずはネギアザミウマに適用のある農薬の中から散布する農薬を決めましょう。地域の防除暦や予察情報等を参考にし、地域ですでに抵抗性がでている系統の農薬がないか確認します。ネギアザミウマは、ピレスロイド系や有機リン系、ネオニコチノイド系などで抵抗性が出ている地域が多くあります。
ネギのネギアザミウマに適用のある主な農薬
ネギにネギアザミウマが発生している地域では、定植前に灌注処理をし発生したら薬剤を散布します。薬剤の種類を増やさないためにも発生したら農薬を散布するようにしましょう。地域の発生情報なども参考にしてください。
1剤を散布した3日後に成虫の個体数や生死などを確認し、効果がないようなら異なる系統の農薬を散布します。多発していなければ1回の散布でかまいません。
秋冬どりでは栽培期間中に、発生が何度か起こるためIRACコードが違う農薬を3~4剤を選んでおきます。ローテーション散布は地域で実施するとより効果的といわれますので、地域と連携をとることをおすすめします。
今回は抵抗性アザミウマに効果があるとされる下記の4剤を選びました。
IRACコード | 農薬名 | 希釈倍率 | 使用液量 | 使用期間 | 使用回数 | 使用方法 | 備考 |
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28 | ベリマークSC | 500倍 | セル成型育苗トレイ1箱またはペーパーポット1冊 (約30×60cm、使用土壌約1.5〜4㍑)当り0.5㍑ | 育苗期後半〜定植当日 | 1回 | 灌注 | 根からの吸収移行性と長い残効性を持った灌注処理用殺虫剤。 残効は3週間~4週間程度。ハモグリバエやネキリムシ類と同時防除が可能 |
5 | ディアナSC | 2500〜5000倍 | 100〜300㍑/10a | 収穫前日まで | 2回以内 | 散布 | 速効性があり抵抗性が出ている害虫にも効果がある薬剤。 残効は7~10日、無人航空機による散布もできます。 シロイチモジヨトウ、ネギハモグリバエ、ネギコガの同時防除が可能 |
6 | アグリメック | 500〜1000倍 | 100〜300㍑/10a | 収穫3日前まで | 3回以内 | 散布 | 速効性と浸達性、持続性を持った薬剤で 抵抗性がでている害虫や隠れた害虫にも効果があります。 ネギハモグリバエと同時防除が可能 |
14 | リーフガード顆粒水和剤 | 1500倍 | 100〜300㍑/10a | 収穫7日前まで | 2回以内 | 散布 | 速効性で茎葉浸達効果をもつ薬剤で抵抗性害虫にも効果があります。 残効は1週間程度。 ネギハモグリバエ、ネギコガの同時防除が可能。 |
②散布
まずは、定植前に「ベリマークSC」で育苗トレイへの灌注処理をし生育初期の防除を行います。ベリマークSCは1ヵ月程度効果が続くので初期の防除に効果的です。
その後、ネギアザミウマが発生した場合は「ディアナSC」「リーフガード顆粒水和剤」「アグリメック」のどれかを散布します。
いずれも農薬散布3日後に成虫の個体数や生死などを確認し、効果がないようなら早めに次の農薬を散布しましょう。1剤で被害が落ち着くようでしたら2剤目は必要ありません。多発している状況であれば、2~3剤目を散布します。
連続して農薬を散布する場合は、世代間ローテーションを心がけましょう。親と子に同じ系統の農薬は散布しないようにし、孫世代になれば親と同じ系統の農薬を散布してもOKです。しかし農薬の使用回数に気をつけ、栽培期間中に同じ系列の農薬が50%を超えないようにしましょう。
防除暦(栽培記録)にRACコードを記載しましょう
防除で使った農薬は、栽培記録に記載しますが同時にRACコードも記載し、番号が同じ農薬を散布していないか管理します。
毎回RACコードを調べるのが面倒という人は、アプリも便利です。農家webの「かんたん栽培記録」は、農薬を使う農家に便利な機能が多くあります。希釈倍率や希釈回数を自動計算、農薬検索データベースと連携しており、病害虫におすすめの農薬を表示する他、農薬情報を検索したり、持っている農薬の混用情報も調べることができます。もちろんすべての農薬のRACコードを情報を記載しているので、毎回調べる必要もありません。
ダウンロードも不要でスマホさえあれば、メールアドレスを登録するだけですべての機能が無料で使えます。