事業主貸(じぎょうぬしかし)は、個人事業主の特有の勘定科目です。会計システムで自動的に仕訳ができていているが、よく意味がわからない、このまま増え続けつづけていいのかなどの疑問がありませんか。ここでは事業主貸についてわかりやすく説明します。
事業主貸とは
事業主貸(じぎょうぬしかし)は、貸借対照表に使われる個人事業主特有の勘定科目で、プライベートなお金と事業のお金を分けるために使われます。
事業主貸はその名のとおり事業主に貸したお金のこと。事業のお金をプライベートなことに使った場合に使われ、経費とならないお金です。
事業のお金をプライベートにはつかわないよという人もいるかもしれませんが、自家用車を一部事業に使っている、自宅の一部を倉庫としているなどの家事按分などがある場合などは一つの請求書にプライベートなお金と事業用の経費が混在しているため、プライベートなお金の部分は事業主貸として計上されます。
その他にも事業用の銀行口座を別にしている場合、その口座から国民健康保険が引き落としになった場合などに事業主貸勘定が使われます。
事業主貸の仕訳
具体的な例をつかってどのような仕訳になるのか説明します。
例)電気代 40,000円が事業用の普通預金口座から引き落としされた。 電気代は80%が農業用に20%は自宅用に使っている。
借方 | 貸方 | 説明 |
---|---|---|
水道光熱費 32,000 事業主貸 8,000 | 普通預金 40,000 | 事業経費 40,000×80%=32,000 プライベートなお金 40,000×20%=8,000 |
事業主貸は多くても大丈夫?
事業主貸は、確定申告のときには事業主借(じぎょうぬしかり)と相殺して貸借対照表に表示されます。(事業主借とは、プライベートなお金で事業の経費を支払いした場合に使われる勘定科目で、事業主が借りたお金のことです。)
事業主貸の数値が大きいと、事業で使うお金をプライベートで使っていると思われるからよくないのかなと思う人もいるかもしれませんが、特に問題はありません。しかし事業主貸が多いということは無駄な仕訳が増えるということ。また事業の利益より、プライベートな支出が多いと税務署にいらぬ誤解を生むことにもなりかねません
なるべく無駄な仕訳が増えないよう、事業用の口座からプライベートな支出が引き落とされないようにする、事業用とプライベートな支出の領収書はわけるなどの工夫をしましょう。
事業主貸は返済するの?
事業主貸は事業主に貸したお金と説明しましたが、貸したお金なんだから返済する必要があるんだよね。と思う方もいるかもしれませんが、返済は必須ではありません。
返済をしない場合は、翌年の期首に元入金(もといれきん)からマイナスして、期首には事業主貸勘定は0円にします。
元入金とは法人でいうところの資本金(事業のために出資したお金)と利益剰余金(事業の利益や損の合計)の両方の性質を持った個人事業主特有の科目で純資産(返済する必要のない財産)です。
私の個人的な見解ですが、個人事業主の場合、「個人的な財産」も「事業主としての財産」も結果同じになるので事業の資本からマイナスするという処理をするのではないかと思います。(法人の場合は個人に貸したお金は、個人が返済する必要があるため資本からマイナスすることはありません)
元入金は農業事業で赤字が続けば、マイナスになることもありますし、事業主貸の金額が利益より大きければマイナスになります。純資産がマイナスになると、その事業自体の運用があまりうまくいっていないように見えるため、銀行などに融資を受ける際に支障が出る可能性もあります。
事業主貸が多くなりすぎたかなと思ったら、会社の経費をプライベートなお金から支出して事業主借を増やせば、期末に相殺することになるので、来期の元入金の減少も減らせます。
事業主貸がある場合の確定申告時の仕訳
事業主貸の残高がある場合には、事業主借勘定と相殺します。事業から事業主に貸したお金「事業主貸勘定」、事業主から借りたお金「事業主借」勘定は、反対の意味を持つので、期末には相殺をしてどちらかの多い勘定科目が残るようにします。
12月末時点の事業主貸残高 100,000円、事業主借勘定残高 35,000円の場合。下記の仕訳を計上します。その結果事業主借勘定は0円、事業主貸勘定が65,000円になります。
借 方 | 貸 方 |
---|---|
事業主借 35,000 | 事業主貸 35,000 |
事業主がある場合の来期の期首簿価
会計システムなどを導入している場合は、期首簿価の仕訳は自動で行われます。が裏側で下記のような計算がされています。
12月末残高 事業主貸 35,000円,元入金残高 2,000,000円、青色申告特別控除前の所得金額 400,000円の場合

まとめ
事業主貸勘定とは、事業のお金をプライベートな支出に使った場合に使われる個人事業主の特有の勘定科目で、事業主貸勘定は、1年に1度精算するので増え続けることはないということがわかりました。
白色申告では不要な処理ですが、青色申告になると貸借対照表を作成する必要があるので事業主勘定がでてきます。今は会計システムなどをつかって自動的に仕訳ができるようになっていますが、意味を理解することは大切です。貸借対照表を理解することで、今年の利益だけでなく事業の財務状況が把握できるようになります。