事業主借（じぎょうぬしかり）は、個人事業主の特有の勘定科目です。会計システムで自動的に仕訳ができていているが、よく意味がわからない、経費にならない？などの疑問がありませんか。ここでは事業主借勘定についてわかりやすく説明します。
事業主借とは
事業主借（じぎょうぬしかり）は、貸借対照表に使われる個人事業主特有の勘定科目で、プライベートなお金と事業のお金を分けるために使われます。
事業主借はその名のとおり事業主に借りたお金のこと。事業のお金を事業主個人のお金から支払った場合に使われる貸借対照表につかわれる科目で、使ったお金が領収書や請求書に基づくものであれば相手科目は経費になります。
個人事業主の場合、プライベートなお金と事業のお金を区別していない人も多く、白色申告の時には貸借対照表は不要で、経費だけ収支内訳書に記載すればよいので気にしていなかったという人もいるかと思います。
しかし青色申告になったら、事業のためのお金とプライベートなお金は区別し、プライベートなお金をつかって事業に使うものを購入した場合は、事業主借勘定を使って仕訳をする必要があります。
事業主借の仕訳
具体的な例をつかってどのような仕訳になるのか説明します。
例１）肥料 80,000円を個人のクレジットカードで購入した。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 肥料費 80,000 | 事業主借 80,000 |
例２）預金が不足しているため、個人の資金から会社の口座へ10万円振込した。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 普通預金 100,000 | 事業主借 100,000 |
経費すべてを事業主借で支払いしてもいい？
経費のすべてを事業主借、つまり個人的なお金や個人のクレジットカードで支払いをしてもかまいません。
すでに事業用の預金口座を持っている、事業用の現金残高を把握しているという状況でしたら、事業のために使ったお金はそこから支払うことももちろん可能です。
しかし青色申告の初年度の場合は、現金や預金口座を分けていない場合が多くあります。その場合は正しい残高がわからないため、預金残高や現金を期首簿価を0円と設定することもできます。
しかしその場合は、出荷をして売上（入金）がない限り事業用のお金は0円なので、個人のお金から支払うしかありません。その場合は、経費（支出）すべてを個人のお金（個人名義のクレジットカードや現金・預金）で支払います。
できれば販売価格は、現金で管理するより農業事業用の口座を作りそこに入金するようにして管理するのがおすすめです。事業主借のお金は、事業主が事業のために立て替えたお金なので期末（12月末）にその口座から返金すれば、事業主借の期末の残高は0円にすることもできます。
一年目でなくても現金や預金の残高が合わないと確定申告の時期になやまされているのであれば、経費はプライベート用のクレジットカードや現金で支払い、入金は事業用の口座にしておけば残高が管理しやすいでしょう。会計ソフトの中には、預金やクレジットカードのデータを自動取り込みすることにより、仕訳が簡単になることもあるので、自分に合った方法を選びましょう。
事業主借は返済するの？
事業主借は事業主から借りたお金と説明しましたが、借りたお金なので事業から個人へ返済しないといけないとおもていませんか。税務のルール上、返済は必須ではありません。
しかし私の個人的な意見ですが、確定申告時に事業主借と事業主貸は相殺するので、この時に事業借が多い場合には、事業のお金から個人へ返金する方が良いと思います。
返済をしないと、翌年の期首に元入金（もといれきん）に加算され、期首には事業主借勘定は0円になります。元入金とは事業の純資産（資本）で、農業事業で赤字になれば減り、黒字になれば増えます。
貸借対照表は事業の財務状況を把握するために使うものなので、事業が個人から借りたお金をチャラにしたことにより資本が増えるというのは、事業の本来の財務状況とはいえるのでしょうか。
事業主と個人の財産は同じといえば同じですが、せっかく貸借対照表を作成するのですから、事業のお金と個人のお金は分けて見える化することをおすすめします。
事業主借がある場合の確定申告時の仕訳
事業主借の残高がある場合には、事業主借勘定と相殺します。事業主から借りたお金「事業主借」勘定と、事業から事業主に貸したお金「事業主貸勘定」は反対の意味を持つので、期末には相殺をしてどちらかの多い勘定科目が残るようにします。
12月末時点の事業主貸残高 70,000円、事業主借勘定残高 100,000円の場合。下記の仕訳を計上します。その結果事業主貸勘定は0円、事業主借勘定が30,000円になります。
| 借 方 | 貸 方 |
|---|---|
| 事業主借 70,000 | 事業主貸 70,000 |
事業主借勘定を返済する場合には、事業の口座や現金から個人へ返金します。その時の仕訳は下記の仕訳になります。
| 借 方 | 貸 方 |
|---|---|
| 事業主借 30,000 | 現預金 30,000 |
事業主借がある（返済をしない）場合の来期の期首簿価
返済をしない場合は、会計システムなどを導入している場合は、期首簿価の仕訳は自動で行われます。裏側で下記のような計算がされています。
12月末残高 事業主借 30,000円,元入金残高 2,000,000円、青色申告特別控除前の所得金額 400,000円の場合
まとめ
事業主借勘定とは、プライベートなお金を事業の支出に使った場合に使われる個人事業主の特有の勘定科目で、相手科目（借方）は領収書や請求書に基づいて事業のために使う支出の場合は、経費となります。
白色申告では不要な処理ですが、青色申告になると貸借対照表を作成する必要があるので事業主勘定がでてきます。今は会計システムなどをつかって自動的に仕訳ができるようになっていますが、意味を理解することは大切です。貸借対照表を理解することで、今年の利益だけでなく事業の財務状況が把握できるようになります。
